「うーーん、・・・」 ユリは夢を見ていた。 どこかはわからない。 くずれていく瓦礫に埋もれていく父タクマ。それを助けられないでいる自分。 「お父さん!!」 ガバッと起きあがって目が覚めた。 「あー、なんて夢なんだろ・・・」 いつも父の相手をするのが面倒くさいユリであったが、夢はやけにリアルで、父が本当に死ぬのではないかという生々しいものであった。 「やだやだ、変な夢は忘れて、今日も一日頑張るぞ!」 そんな悪夢を振り払うかの様に自分に言い聞かせると、彼女は素早くトレーニングウェアに着替え、トントンと階段をかけ降りていった。 ダーーン、ダーーン。 朝っぱらから台所で、そばを叩きつける音が聞こえる。 作っているのはもちろんタクマ・サカザキ。知る人ぞ知る極限流空手創始者である。 「お、起きたなユリ。今日も、そばは上出来だぞ。どうだお前も食わんか?」 「いい、いいよ・・・」 こんな親父・・・心配して損した。 あんな、なんべん殺しても死ぬとはとても思えない親父の最後を夢で見るなんて、そうはないなと、思いながら、ユリは朝のさわやかな風に体をまかせて、かけだしていった。 日がもう昇り、街が動き始めた頃、一汗かいたユリが帰ってくるのを一人の男が玄関先で待っていた。 赤い胴着の男。極限流空手師範代。リョウ・サカザキである。 「もう!お兄ちゃん!いいかげんその胴着洗いなさいよ!すごいにおいだよ!!」 「なに!?これは今まで闘ってきた男達の!い、いいや、そんな事はどうでもいい。それよりもユリ、親父が話したい事があるそうだ」 「えーーー」 「まあ、ユリちゃん。話くらい聞いてもええんとちゃうか?」 兄の後ろから見慣れた顔がスッと出てきた。 「あ、ロバートさん!」 ロバート・ガルシア。ガルシア財閥の御曹司。兄であるリョウ・サカザキのよきライバルであり友人である。 「ロバートさんまで呼ぶなんて・・・これは、まさか!」 「そうや、たぶん今年もキング・オブ・ファイターズがあるんとちゃうかな?」 「よおし!そういう事なら話を聞く価値もあるみたい。で、お父さんは?」 「今、道場にいる」 「じゃ、行きましょ」 聞いた途端に、ユリは道場の方に足を向けた。 「あ、ユリちゃん。待ってえな。そない急がんでも師匠は逃げへんて」 ユリは、すたすたと道場の方へ向かって歩きながら、もう今年もキング・オブ・ファイターズの季節がやって来たなと思うのであった。 道場に三人が着くと、中ではすでにタクマが正座の姿で待っていた。 「おお、三人共揃ったな。まあ、こっちに来い」 「親父、話というのは?」 正座をしながらリョウが訪ねた。 「うむ。じつはな、道場にこれが届いた」 タクマが差し出した物。それはまぎれもなくキング・オブ・ファイターズの招待状であった。 「やはり今年もキング・オブ・ファイターズの大会が開かれるのか」 神妙な顔つきでリョウが答えた。 「にしては、今年はなんやテレビの宣伝もしてへんし、規模が小さくなって地味やなあ。まあ、キング・オブ・ファイターズの大会はハプニング続きやさかい、大きなスポンサーは尻込みしてもしゃあないか」 「それで今年も出場って事だろうけど、今回は私、他の人達と組みたいな」 「いや、ユリ。お前は我々極限流のチームの一員として出場してもらう」 タクマが即答した。 「え〜どうして?だってお兄ちゃんでしょ?ロバートさんでしょ?お父さんが出たら定員オーバーじゃない!」 「実はな、今回は四人一組のチーム戦の様なのだ。」 「ゲッ!じゃあ私、今回も女性格闘家チームとして、出場できないの?」 「ユリ!お前は極限流のチームの一人だという事を忘れるな!それは・・・」 「はいはい。お父さんの説教はもういいです!あ〜あ、でも今回はお兄ちゃん達とは違う人達と組みたかったな・・・」 「まあ、ユリちゃん。ええやないか。今回は極限流空手全員出場や。こんな事めったにないで」 「それはそうだけど・・・」 「ユリ!文句を言うな!お前はいつも・・・」 「はいはい!わかりましたよ!お父さん達と出場しますって!じゃあ、私、トレーニングの続きがあるから」 「待て、ユリ。親父の話はまだ・・・」 リョウが止めるのも聞かず、ユリは道場を後にした。 ユリは道場の裏にある松の樹の下にいた。 「もうっ、お兄ちゃん達のいいようにされるのはなんだか、しゃくだけど、まあ、大会に出られるだけでもよしとしないと・・・」 それと・・・ どうも、気にかかる事がある。今朝に見た夢である。 お父さんとキング・オブ・ファイターズの大会は何か関係があるのかしら?それとも全然関係のない事なのかしら?いずれにしても大会に出れば何かわかるはず! ユリは妙な不安とそれと同じくらいの期待を胸に秘め、大会に出場するのであった。 今年の夏も熱くなりそうである。 |