

世は太平の時代となり、剣の時代は終わりを告げようとしていた。
しかし、国にはそんな時代の流れに適応できない人々が増え続け、
いつしか社会問題へと発展していった。
そこで幕府は江戸近海の小島に無宿者たちを更正させる場として
「牢人街」を作り、その者たちを管理した。
しかし、その牢人街を利用し、幕府を滅ぼして「選ばれた者だけの
新たな世界」を創ろうとしている者たちがいた。
その名を「覇業三刃衆〔はぎょうさんじんしゅう〕」と云い、各々が強
大な力を持っていた。
彼らはその力をもって無宿者たちを従え、その場所に国家転覆の
足掛かりを作り上げていった。
そして、いつの頃からか「牢人街」は「離天京」と呼ばれるようになった。
彼らによって「離天京」は、「社会復帰のための更正の場」から一転
して「強いものだけが生き残る無法地帯」へと変貌していった。
人々は、日々を生きる為に憎しみ合い、奪い合いそして殺しあう。
「覇業三刃衆」はその憎悪の力を吸収しながら着実に勢力を強大に
していった。 |

風も無く、月の光も無い闇夜。
燈・燈・燈・燈。
蝋燭の灯りが燈り、闇の中に
一つの影が浮かび上がる。
穏やかな顔をし、髭を生やした
初老の男。
「来たか?」
「はい、朧〔おぼろ〕様。赤目の
男と女がやってきました。」
声のみが闇の中から返ってくる。
すうっと、音もなく、初老の男は
立ち上がり、
「ついに時が来たか・・・では、
迎えにいくぞ。」
男は閉じていた双眸を開く。
蝋燭の灯に浮かび上がる紅い瞳。
びゅう。
一陣の風が巻き起こり、そして
再び闇が世界を支配する。 |
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数年後、高台から三人の人物が下界を見下ろしている。
ひとりは背の高い帯刀した男。一人は白く妖しい女人。
二人に共通するのは紅い瞳。
その二人の背後に、場に似つかわしくない人の良さそうな老人が控え
ている。
陽の光が紅い瞳に反射し怪しく光る。
女がつぶやく。
「わたくし達に仇なす者が数名、離天京に入ったようです。
わたくし達の意志を成就させる為の最大の障壁になるであろうとの
お告げです。」
男は下界を見下ろしたまま声を発する。
「我らが動くことは無い。黙っていても鼠は来る。」
覇業三刃衆によって太平の世は終わりを告げる。
各々の思惑を秘め戦う者たちが「離天京」に集まり、物語は始まる。 |
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